
日本メディカルイラストレーション学会 設立
2016年12月4日、第1回の記念すべき学術集会が開催され、未来に向けて船を漕ぎ出した日本メディカルイラストレーション学会(Japanese Society of Medical illustration; JSMi)。2020年3月には第4回の総会が予定されています。
メディカルイラストを研究し始めた私は、まもなく日本には研究・教育する団体が存在しないこと、歴史上、一度たりとも結実した記録が残っていないことを知りました。その後7年の時を経て、学会の設立に関わることになります。
(なぜ日本に団体が作られなかったのか、詳細の考察は別の記事にまとめています。「日本のメディカルイラストレーション事情と学会設立までの道のり」)https://medmorphose.com/hello-world
ここでは学会設立までの大まかな流れを記録していきます。
1:前準備期
それまで個々人で活動していた関係者が、団体の必要性を感じるきっかけとなった出来事として2つのイベントがあります。
- 2014年11月に開催された第76回日本臨床外科学会
- 2015年8月に開催された佐賀大学美術館「知られざるメディカルイラストレーションの世界展」
上記1の臨床外科学会では、日本の医学史上初めて、メディカルイラストレーションがメインテーマの一つに取り上げられ、国内外の作品の展示会、ハンズオンセミナー、パネルディスカッションが開催されました。レオン佐久間先生にお声がけいただき、私も作品の出品とパネルディスカッションの司会を務めました。
この時、有志の中で「メディカルイラストに理解ある医師とイラストレーター」の為の団体を作ろうという機運が盛り上がり、設立準備委員会が結成されました。
設立メンバーは医師3名、イラストレーター3名の計6名です。
発足当初より
「日本にはメディカルイラストレーションの団体が必要であり、医療者とイラストレーターが共に学び合い交流する会にしよう」
という一致した目標がありました。
上記2の佐賀大学美術館展では、私が中心となって準備を進め、22名のイラストレーター・医師の作品、合計102点を1ヶ月に渡って展示する大規模展となりました。
詳細については別の記事にまとめています。(「日本初!佐賀大学美術館でメディカルイラスト展 主催」)https://medmorphose.com/information/sagauni-museum-mi
この展示会により4000人を超える一般閲覧者が訪れたこと、複数のメディアに取材を受けたこと、出展されたイラストレーターが団体設立に期待を持っていただいたこと、同年11月に東京芸術大学美術解剖学教室での「メディカルアート&イラストレーション」の展示につながったことなどから、団体設立に邁進する要因となりました。
2:準備期
2017年12月の学会設立、学術集会・総会開催に向けて、6人の委員会メンバーは打ち合わせを重ねていきます。東京・岡山・九州と離れた場所に在住するメンバーは、メールでのやり取りを主体に数回の会合を持ちながら、積極的に準備を進めました。
ここでは詳細については触れませんが、実行した内容の内訳を記します。
- 学会か、協会か、研究会かの議論
- アメリカの団体(AMI)のホームページ内容分析
- 学会の内容、メディカルイラストレーション学についての議論
- 趣意書の作成
- 会則の決定
- 発起人の依頼
- ホームページの制作・学会ロゴの制作
- facebookページの運営
- 学術集会の内容決定
- 関心のある医師・医療従事者、イラストレーター、出版関係者への広報
- 主力メンバーとなる候補者へのコンタクト
- メディアへの広報、医学系学会、教育病院、美術系大学、専門学校への告知
- 学術集会プログラムの策定
- 会員募集要項策定
- 協賛企業・賛助会員募集
- 演題募集要項の作成
- プログラム抄録集の作成
最も大変だったのは、専門に研究している学部や公的組織が無い中、メディカルイラストに携わっている人達は多彩な専門領域にまたがっており、イラストレーターも学会組織に不慣れであることから、統一した団体をどのような形で作り上げる事が適切なのか、誰もわからなかったことです。
そんな中で、委員のイラストレーターは教育的な団体の設立という長年の願いの実現のために、情熱を持って取り組まれ、医学系出版社とのパイプを活用。委員の医師は医学系の学会活動で培った団体運営のノウハウを適応し、医学界の人的ネットワークを駆使して、一歩一歩前進していきました。
3:第1回学術集会・総会
準備委員会設立から3年、ついに学会が日の目を見る時が来ました。
趣意書、ポスター、ホームページ。そして今でも涙なしでは見れない当日の写真を掲載します。
趣意書の全文はホームページより閲覧できます。https://www.medical-illustration.jp/pdf/syuisyo2016.pdf
第1回集会を開催後、東京工科大学と川崎医科大学を拠点に第2・第3回の学会を開催しました。
また学会雑誌の第1号を発行し、2018年より認定制度につながる講習会をスタートしました。
2019年12月に東京で開催された講習会にはのべ70名の参加者が集まり、学会の着実な進歩を感じることができました。
学会設立を経験して
準備期間中、私の人生のプライオリティの最優先事項として突っ走った実感が残っています。
公立病院の部長職を務めながらの準備には苦労した面がありますが、公私ともに全力で取り組むことを許してくれた方々には感謝しかありません。
また学会は船出しましたが、これから成長するか、失速するかは今後のあり方に関わっています。
慢心することなく知恵を集め、力を結集し、「これからの日本にはメディカルビジュアルの団体が必ず必要である」と言う信念の元、前進していくことが必要であると考えています。