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2019年3月に形成外科医向けに行ったワークショップのレクチャー内容をシェアします。
忙しい医師が描き続けるためのコツについて話しました。

医療専門職が絵を描くことを阻害する要因6つ

  1. 忙しい。まとまった時間がとりにくい。疲れている。
  2. 描くことによる肩こり・腰痛・眼精疲労
  3. 孤独になる。仲間がいない。見せる人がいない。
  4. 迷った時に指導者がいない。ノウハウがわからな い。
  5. 上手い人と比較してしまう。
  6. 制作にも上達にも時間がかかる。上手くいったと思っても、次に描く時は下手になっている。思うように上達しない。飽きる。

私の実体験から、この6つが考えられます。
それぞれの問題について、10年試行錯誤した解決法を書きますね。

1:「忙しい、まとまった時間がとりにくい、疲れている」の解決法

  • まず、 描く時間が取れるように工夫しましょう。
    時間的に余裕のある職場に変わる、無駄を省くためのIT機器の導入(紙書類のデジタル化、音声入力、チャットアプリ、クラウドでの情報共有、スケジュールアプリなど)、仕事の効率化・スピードアップ、仕事を他の人に振る、早起きによる朝時間の活用、スマホや音声学習による隙間時間の活用、仕事・生活の断捨離など。
  • 絵を描く学びを効率化をしましょう。
    ネットや書籍にいる先駆者に学ぶ、音声や動画による「ながら学習」、耳学問、職場のデスクにスケッチブックと鉛筆を常備しましょう、スマホに描きかけの作品をアップしいつでも見直せるように活用、毎日少しでも絵について考える時間を増やしましょう。
  • 疲労の回復も大切です。
    ストレッチ、温泉を活用しましょう、夕食は早めに済ませ、夜はモニターを暗くし、睡眠の質を上げましょう。

Youtubeでの絵の学習ができるオススメチャンネル
ウニアトリエ
https://www.youtube.com/channel/UChpVEyd-1uH83UAteImbZgA
室井康雄「アニメ私塾」
https://www.youtube.com/channel/UCRYuHKwhgfCighvhR3n151w
Proko
https://www.youtube.com/user/LighterNoteProd

私の仕事デスク。休憩時間を有効に活用しています。

2:「描くことによる肩こり・腰痛・眼精疲労」の解決法

  • 真剣に絵を描くのは「疲れます」。普段、絵を描かない人には理解しにくいことですが、座ったまま30分、1時間、 3時間と集中して絵を描き続けると、ドッと疲れます。仕事に影響を与えないために、疲れをためないための工夫が必要です。
  • まず姿勢を正すこと。前のめりになって猫背のまま描き続けると、肩こり・腰痛の原因になります。背筋を伸ばし、頭を起こす姿勢が大切です。
  • 机は傾斜デスクが理想的です。卓上傾斜台やtiltdeskで検索すると製品がヒットします。手軽には机の上に画板や板を斜めに置いて、代用できます。私は傾斜台を自作しました。
  • 椅子は骨盤を立てる、前傾サポートと体重分散のできる製品が理想的です。肘掛もついている方がベストです。エルゴノミクスチェアで検索してみてください。私はアーロンチェアを愛用しています。あまりにも楽チンで、仕事場と自宅と2台買いました。
  • ストレッチで縮こまった胸を開く動作をしましょう。描く時間はどうしても頭が体の前に傾きます。固まった僧帽筋・大胸筋を伸ばしてあげましょう。歩行や全身運動でほぐしてあげること、入浴でリラックスすることも大切ですね。
  • 眼の疲労に対しては目薬の利用、パソコンのブルーライトカット設定、眼輪筋のマッサージが有効です。外出時は紫外線カットの入ったサングラスをかけることもオススメです。
  • 描く気力・体力がない時でも絵の勉強はできます。本や音声、動画で休憩しながら学習しましょう。
座りっぱなしの運動不足を解消するために、立ち椅子を自作しました。今は使っていませんが。
自作の傾斜台。3段階に角度を変えられます。(NHKの取材画像より引用)

3:「孤独になる、仲間がいない、見せる人がいない」の解決法

  • そもそも描く行為は一人の中のやり取りです。だから素直になれるし、誰からも邪魔されることなくマイペースで楽しめる。努力は積み重なり、成長することができます。
  • 身近に絵を描く仲間がいない人でも、今の時代、SNSで仲間を作ることが簡単にできます。普段、絵の話をすることもない環境で仕事している人が多いと思いますが、SNSでは別人格を作ることもできます。将来なりたい自分の姿を思い浮かべ、絵を描く自分を演じてみる。匿名でも構いませんのでSNSに絵を投稿してみましょう。意外と同じような気持ちの人がSNSにはたくさんいることに気がつくでしょう。
  • 私が2010年にメディカルイラストを描き始めた頃、国内には学ぶ場所も無く、交流したい人達も見つかりませんでした。ネットで欧米での盛んな盛り上がりを見ては羨ましく思っていた私は、2017年に日本メディカルイラストレーション学会を作りました。今、絵を描きたい皆さんは学会に参加することができます。https://www.medical-illustration.jp/
  • 大都市や近郊ではスケッチ会や絵画教室が開催されています。検索して参加してみてはいかがでしょうか。
  • 自分では描かなくても、絵を見ることを趣味としている人は意外に多いもの。医療専門職の中にもたくさんいます。自分が絵が好きなことを開示すると、身近にいるかもしれません。
  • 美術館に行ってみるのも刺激になります。お住いの街だけでなく、出張先でも時間を作って足を運ぶと意外な発見があるでしょう。
  • 海外のメディカルイラストレーションのサイトを覗いて見てください。老いも若きもたくさんの人が交流している様子を知ることができます。もちろん日本メディカルイラストレーション学会のホームページもお忘れなく。
  • お気に入りのメディカルイラストレーターが見つかったら、彼らの多くはホームページやSNSを運営しています。是非フォローしてみてください。(私のサイトも是非!)
  • 漫画を読むことも、絵を描く勉強になります。お気に入りの絵柄を見つける、描き手の気持ちになってみることがオススメです。
  • メディカルイラストの本を買ってみましょう。国内では数冊の関連書籍が出版されています。(別の記事で紹介します。)
  • より深く関わりたい方は、院内展示会を企画してみることもオススメです。同業者だけでなく患者さん、その家族もメディカルイラストにはとても興味を持ってくれます。また発信する側に回るとたくさんの仲間ができます。展示のノウハウは別の記事にまとめますのでお待ちください。

4:「迷った時に指導者がいない、ノウハウがわからない」の解決法

  • 私も長い間、教えてもらえない環境にいました。当時から続けていることは本から学ぶことです。まず絵の描き方の本を探しましょう。書店の描き方関連書籍コーナーを回ると驚くほどたくさんの本があることに気がつきます。自分にあったものを選んでみましょう。
  • メディカルイラストはサイエンスイラストの一分野として、欧米では確立されています(参考書籍:The Guild handbook of Scientific illustraionhttps://www.amazon.co.jp/Guild-Handbook-Scientific-Illustration/dp/0471360112)。ネットからも情報を集めてみましょう。アメリカの職能団体であるAMIのホームページには作品のギャラリーがあります。https://www.ami.org/ ジョンスホプキンス大学のArt as applied to Medicine学科には教育カリキュラムが掲載されています。どのようなカリキュラムが組まれているか、参照してみてください。https://medicalart.johnshopkins.edu/
  • 学会では年に2回、講習会を開催しています(東京か岡山で)。メディカルイラストを描く際に必要となる知識、技術を幅広く学ぶことができます。ぜひ参加してみてください。https://www.medical-illustration.jp/kai.html
  • お近くの絵画教室、クロッキー教室に参加してみると、絵画の基本的な指導を受けることができるでしょう。
  • 忙しい方にはネット添削教室もオススメです。たくさんのオンライン教室がありますが、私が利用したことのあるサイトは、アニメ私塾 http://animesijyuku.blogspot.com/、Udemyhttps://www.udemy.com/course/figuredrawing/です。その他、お絵描きSNSであるpixivやart station、その他Pinterestにも描き方のノウハウがアップされています。
  • これらの情報で学んだら、実際にノウハウを試して描いてみましょう。使ったことのない道具を買ってみる、描き心地を試してみるのもワクワクするものです。
  • 気に入った作品が見つかったら、じっくり見てみましょう。どんな方法で描いているのか?どんな資料を揃えて、道具は何を使って、どんな順番で描いているでしょうか?自分で模写してみるのも大きな学びになります。

5:「上手い人と比較してしまう」の解決法

  • 人は人。過去の自分と比較しましょう。描いた作品は取っておくと、比較できるのでオススメです。写真に撮るか、ネット上に上げておくと見直すのが楽です。
  • 手術などの医療現場は医療専門職にしか立ち会えません。その優位性を意識してください。医業を独占しているからこそ理解できることがあります。それはイラストレーターに対する優位性になります。
  • 自分で手術する医師であれば、その経験を自分で描くことができれば最強です。世界に一枚だけのかけがえのない絵になるでしょう。
  • 自分より上手い人を見た時は、そこまで行く道筋を教えてくれていると考えましょう。人間の能力にはそこまで大きな差はありません。
  • 足りない部分が意識化できれば効果的にトレーニングできます。優れた作品に表現されている技術を分解し、ノウハウに落とし込んでみましょう。
  • SNSや展示会をみると、描くことを楽しんでいる沢山の人がいることを知ることができます。技術の上手い下手にかかわらず、描く行為を楽しんでいらっしゃいます。
  • 描くことに疲れたら、一旦離れてみるのもいいです。様々な経験をして、心が豊かになった時、ふと描きたくなるものです。
  • 上手い人は何が優れているのか、作品のどこに魅力を感じるのか、落ち着いて考えてみましょう。意識できることは、いつか実現できるはず。

6:「制作も上達も時間がかかる上手くいったと思っても、次に描く時は下手になっている、思うように上達しない、飽きる」の解決法

  • 数年かけて上達した人の画像を見てみましょう。短期間には上達しないことは確かですが、描き続けることで確実に画力はアップします。
    (「上達の過程が丸分かり!アーティストの過去と現在の絵を比較した画像集」)https://pararium.com/archives/1049812651.html
  • 自転車と同じで、一旦身につけた描く力は衰えにくい面があります。
  • 人はだれでも描く潜在的な能力を持っています。絵を見るのが好き、鉛筆で線を引くのが面白い、その喜びを大切にしましょう。
  • 描く努力をする過程で磨かれる能力に着目してください。ものを見る観察力、手先のコントロール力、垂直・水平・傾き・奥行きを知覚する能力、自分を癒す力、絵画的思考力など、一枚の絵の巧拙に止まらない能力が磨かれていることに気がつきます。
  • 課題を決めて一定期間やり続ければ、スピードはアップすることを理解しておくことも大切です。一枚の絵に3時間かかっていたことが、数年後には30分で描けることもよくあります。
  • やはり継続は力なりです。描く習慣を身につけることが肝要です。
  • 仕事が多忙、あるいはやる気がなく描かない時期が訪れることもあります。その場合もできるだけ期間を空け過ぎないようにしましょう。スケジュール手帳に記録をとり、少しでも描いた日にはチェックを入れ、定期的に振り返ってみましょう。
  • 描き方の知識ばかりで頭でっかちになるより、実際に努力した上でアドバイスを受けてみる、疑問が浮かんだ時に書籍を読み返すことも、画力アップには必要です。
  • 人によって適した絵のタイプがあります。自分に合う絵柄を見つけ、真似してみましょう。伸び悩んだ時は、思い切って描き方を変えてみるのも一手です。
    →オススメ書籍「絵はすぐに上手くならない」成富ミヲリ著http://www.sairyusha.co.jp/bd/isbn978-4-7791-2118-0.html
  • 好きな作品を見つけること、描くのが好きという気持ちを大切にすることも大切です。無理に自分を追い込まず、作品を見ることを楽しみましょう。

描く喜びを大切にしよう!

  • 描くことで簡単に物が作れます。「紙の上に何かが出てきた!」という喜びを大切に。
  • いろんな表現方法がある中で、描くことは自分の感覚を乗せた表現ができる能力です。
  • 描く練習をする中で、ものを見る観察力がつきます。これは仕事の上でも、日常生活でも役に立ちます。
  • お金をかけなくても簡単に達成感が味わえます。

楽しんで描くには?

  • 好きなものを描きましょう!医療系のモチーフが好きなら、メディカルイラストレーションとしては最強です。
  • 見ながら描きましょう!何も見ずに描くことが偉いわけではありません。
  • メッセージカードに絵を添えるなど、日常のコミュニケーションに絵を取り入れてみましょう!
  • 絵以外のものに興味を深めるのも、描くネタになります!
  • 人との付き合い、映画・音楽・お祭りなどなど、生活の中で感情を豊かにすると、描くことに良い影響があります!

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